コラム
『鶴味噌の活力』
家族で仕込んだ手作り味噌(鶴味噌)を味わう。
米麹の甘い薫りが体中を駆け巡り、今日の活力にかわる魔法のお味噌汁だった。
蒸した大豆に米麹・塩を加えて仕込んでいく。大豆を潰す手間ヒマをかけ、鶴味噌の原型を作り出す。仕込んだ鶴味噌を家族の一員に迎い入れ、じっくり育てる。クサる、カビる、そんな時もあった。表面はスプーンですくい治療する。樽の中でもがいている様には手を出さない。じっと見守る。気温・環境によっても、味わいが変化する。
毎日、声を掛け、少しの変化に家族と一喜一憂する。通り過ぎた日を振り返り、眺めてみる。怒っていたり、笑っていたり、心の窓をそっと覗けば、忘れかけたものが染み出てきた。
鶴味噌の味噌汁を飲みながら「学生の頃に憧れたものを追いかけてみたい」と家族に打ち明けた。いまの給料を投げ出すというのに「好きにしていいよ」と笑顔だった。
今日も魔法の味噌汁が食卓に並ぶ。「さぁ帰ろう。ほんとの自分へ帰ろうよ」とささやいている。
新任職員として現場着任してから31年経過した。果たしてどんな味噌ができたのか。どんな味わいを醸し出せるのだろうか。
さあ召し上がれ。
【新しい樽、新しい場所で。】
「学生の頃に憧れたものを追いかけてみたい」 あの日、魔法の味噌汁を飲みながら打ち明けた決意から、独立して一年半が経ちました。
いま、私は新しい事務所という「新しい樽」を構えました。 31年かけて染み付いた経験という麹(こうじ)に、独立してからの日々という新しい息吹が混ざり合い、またひとつ、私という味噌の味わいが深まってきたように感じます。
味噌作りがそうであるように、この一年半もまた、じっと見守る時期もあれば、表面の傷を丁寧に治療するような試行錯誤の連続でした。 けれど、新事務所の扉を開けるたびに、あの日のささやきが聞こえてきます。 「さぁ帰ろう。ほんとの自分へ帰ろうよ」と。
子供の頃のような純粋な「魔法の『なぜ?』」を、大人になっても大切にできる場所。 お客様が抱く不安や疑問という原材料を、時間をかけて安心と活力という「味わい」に変えていく場所。 そんな場所にしたくて、私はこの拠点を拓きました。
31年の重みと、一年半の瑞々しさ。 その両方を詰め込んだ、今の私にしか出せない「答え」があります。
新しい事務所にて、お待ちしております。
熟成の続きを、さあ召し上がれ。
武漢邦人を救った(隠れた)英雄たち
――忘れられないミッション
2020年1月。未知のウイルス「新型コロナウイルス」が世界を震撼させ始めた頃の思い出。
「48時間以内に、500人の生活拠点を空けよ」
武漢からの帰国者の生活環境を確保するため、政府から下された指令は「2日間で研修所の学寮2棟を完全に明け渡すこと」でした。
当時の研修生たちは、人生を左右する卒業試験を目前に控えた追い込みの時期。しかし、国家の非常事態に、彼らは迷わず立ち上がりました。引っ越し業者の手配もつかない中、職員と研修生が総出で、手渡しによる過酷な引っ越し作業を敢行。48時間後、無事に250名の帰国者を迎える準備を整えました。
「私の研修生たちは、この国のヒーローだ」
試験勉強の時間を削り、自らの思い出作りもキャンセルして、黙々と荷物を運ぶ若き国税職員たちの姿。ニュースで帰国者受け入れの報を目にしたとき、私は彼らが見せてくれた「国家公務員としての使命感」と「圧倒的な団結力」に、震えるほど胸が熱くなりました。
誇りを胸に、現場へ。
研修を切り上げ、予定より早く全国の職場へと散っていく彼らに、私は最後にこう贈りました。
「さあ、胸を張って。君たちが帰国した日本人を救ったヒーローなんだから」
税務の道は、時に険しく、目立たない裏方の仕事かもしれません。しかし、あの時の彼らのように、いざという時に誰かのために全力を尽くせる。そんな「志」を持つ仲間がこの国を支えています。
私もまた、あの日のヒーローたちに恥じぬよう、一人の税理士として、皆様の難局に共に立ち向かう「誠実な盾」であり続けたいと強く願っています。


